犯人はなぜ指図したのか、高槻駅から電車に乗れと。

未分類 鉄軌道/railroad railway

その日、数日前に脅迫状を送りつけていた高槻市内に本社を置く大手の食肉加工品メーカに対し、国鉄の高槻駅より京都駅へ向かう電車に乗るよう犯人は命じます。
20時何分かに出る普通電車で進行方向の左側に白い旗が見えたら5千万円を入れたバッグを窓から投げろ、とのこと。
同社の関係者にかわり数名の大阪府警の警察官がその指図どおりに動き、実際に白旗の存在を京都府内にて確認できたものの、車窓よりバッグを落としはしませんでした。

――森下香枝『真犯人 グリコ・森永事件「最終報告」』朝日新聞社だったと記憶していますが、そうした経緯を書籍で読んでから、この件についてずっと疑問に思っていることが私にはあります。

彼奴はなぜ、高槻駅から電車に乗るよう指示したのでしょう?

以来、大阪駅などより東海道線の上り電車で、とりわけ夜間に移動するときは左側の車窓に目をやりそこを通過するのですが――

夜の現地はほぼ真っ暗なのですよ。
シルエットもなにも見えない写真ではなにがなんだかわからないので感度を上げて撮っていますが、実際には電車の光、その奥に建つ飲料メーカの工場の光がはっきり見える以外は視界が悪いものだと理解してください。
(電車が過ぎたらさらに暗くなります。)
こういった場所に走行中の電車からなにかを投げられて、それをスムースに獲得できると考えるほうがどうかしている、と思えるような環境下です。
それらの明かりが地面に反射しているということは畑(? もしくは田んぼ?)に水が張られているわけですが、そうした厄介なものを回避しなければならないポイントをなぜ選んだのだろうと、首をかしげてしまいます。

昼間の車窓より現場を見てみましょうか。

40年近く前の植生とはちがう可能性や、地球の温暖化の影響は考慮しないといけませんが、その日とほぼ同日に撮ったもので、写真のように線路の脇には緑が旺盛に茂っています。
こうした場所にバッグが投げられれば、回収から逃避までを無事に達成させるのはなかなか困難です。
(当時は存在せず2013年に開通した京都第二外環道をフレームに入れて撮ったのは写真のみでロケーションを特定しやすくするためで、実際に白い旗が立っていたのはもう1秒か2秒ほど進んだ先であるかもしれません。)
話を簡単にするべく普通電車の時速を72km(キロメートル)と仮定すると、旗を視認してから投げるまでの時間がほんの1秒ちがうだけでバッグの落下地点に20メートルものずれが生じる計算になりますが、犯人らはそこまで勘案していたのでしょうか。

そして、なにより私が疑問に思うのは、内側の線路を走る電車から落とすことになる指示です。
高槻駅を発つ普通電車や快速電車は当時も現在も、(私は外側線の電車より上の写真を撮りましたが、その1本右に敷かれた)内側の電車線を走ります。
脅迫という行為に常識もなにもありませんが――常識的に考えて、外側の線路上ではなくさらにその向こうの路盤外へ放て、と解釈すべきですよね。
しかし、野球などのボールならともかくバッグを、最低でも外側の線路を越えて3メートルも遠くに、走行中の電車内から投げようとしたところで、うまくいかない危険が多分にあります。
一万円札が5,000枚もあれば5kg(キログラム)もの重さになるからです。

内側線ではなく外側線の電車からだと放物自体は比較的簡単にできそうではあります。
ところが、当時は高槻駅を出る電車で、外側の列車線を走るものが存在しません。
新快速の電車が外側の線路を走るようになるのはその約2年半後ですし、そもそも当時の新快速は夜間の混雑時の設定がなかったうえ、新大阪駅を発つと京都駅まで停車しない種別でした。
(JR西日本が平日の夜間の新快速電車を高槻駅にも停めるダイヤに変えたのは、十数年も経った1997年です。)

すぐ近くには複線(上下線で線路が計2線)の阪急電車も走っているのに、なぜ複複線(同計4線)の国電に乗るよう命じたのかもわかりません。
阪急よりも国電のほうがうまくいきそうな要素をひとつ挙げるとするなら、阪急の車両が1段式の窓であるのに対し国電の当時の車両は(103系だったにせよ201系だったにせよ)窓が2段式ゆえ、下段の窓から無理のない体勢で荷物を投げられることくらいです。

多くの食品会社をターゲットにした一連の事件で最初に起きた、菓子メーカ大手のトップの拉致はやり口がかなり巧妙なうえ、氏の監禁されていた場所も夜にはだれも近づかなさそうな、よくここを選んだなと個人的に思える倉庫でした。
(夜間に撮ったものでなければ無意味だからとはいえ、写真の撮影のためだけにこの現場に暗い時分に近づくのは私も躊躇してしまう、なかなか不気味なところです。)

周到な計略があってのその拉致事件とは対照的に、国電を舞台にしたこの脅迫事件は粗末というか、緻密さがまったく感じられないのですよ。
(自身は別件の書状のなかで否定していますが)悪漢の似顔絵として有名な、いわゆるキツネ目の男が複数の捜査員にはじめて目撃されたのもその普通電車内や終着の京都駅においてです。
真の目的は不明ながら、この件については金を取る本気など犯人には最初からなかった、と結論づけるほうが合理性がある感じがします。

(存命かどうかもわからぬ)本人からの反論がないことを承知でこうした言説をリリースするのも卑怯だとは思いますが、どなたもなさっていないようなので私が指摘してみた次第です。



コメント

タイトルとURLをコピーしました